提案の軸は、アフターからビフォーへ
エンジンの部品は定期的な交換が必要です。そうした部品の売上数字が営業担当の成績なのですが、営業が売るのは部品ではなく、技術提案を核とするソリューション。どういうことか。以前、売れに売れたサーメットリングの例で説明しましょう。 2020年1月、SOx(硫黄酸化物)削減を主眼とする新環境規制が施行され、従来主流だったC重油から低硫黄油への切り替えが一気に進展。ただ低硫黄油は性状、品質が安定しない上に、運用や、PHコントロールが難しく、従来のピストンリングのままだとシリンダライナの表面がダメージを受けるということで、主機メーカー各社とも潤滑性の低下をカバーするサーメットリングを提案…と、ここまでは単純な部品営業です。
私がサーメットリングの販促活動で気になったのは、競合他社は、この製品のメリットばかりを伝えて、リスクを伝えていないことでした。実は、このリングは使い方を誤るとかえってシリンダライナの摩耗を促進し、寿命を短くしてしまうリスクをはらんでいたのです。 そこで私はサーメットリングを闇雲に勧めるのではなく、技術的な見地から、リングの有効性とリスクを説明、その対策もしっかり伝えることにしました。リスクをご理解いただいた上で、適切にご使用をいただくことで、お客様は大切な財産を守ることができる、それが、我々のビジネスモデルにそぐうと考えたのです。主機関の寿命は20-25年、つまり我々はユーザーであるお客様を同じ期間支え続ける必要があるのです。目先の利益に囚われ、ブームに乗って説明責任も果たさず売り逃げし、信頼を失うべきではないと考えたのです。正直にリスクを伝えたことによって、お客様からより強い信頼を得ることができたことは私の誇りです、それが長い目で見て会社の利益につながることは言うまでもありません。 一方でこのサーメットリングという製品は、私のマキタにおける営業スタイルを見直すきっかけにもなった思い入れのある商品です。従来、シリンダー内部のコンディションを把握するためには、シリンダー上部に突き刺さっている各種弁や、パイプを外して、シリンダーカバーを外し、超重量物であるシリンダーライナーを釣り上げる必要があります。これらの作業は最低でも半日以上の時間がかかる大掛かりなジョブとなります。1分1秒を惜しんで船を動かしたいお客様は、このシリンダー開放を極力避けたいのは言うまでもありません。 詳しくは割愛しますが、このリングの寿命評価方法を利用すれば、上記のような多大な労力が必要なシリンダーコンディション評価を、簡易的ではあれ、短時間で容易に行うことができることに気づいたのです。その手法をお客様の会社の技術管理者に伝えたところ、一定の理解と賛同を得られ更にビジネスを拡大することに成功しました。
人生でいちばん、悪くない決断
この手法には、社内各部門の連携で実現したという意味で、また将来への布石という意味でも、大きな意義があります。一般に主機関の保守は、トラブルが発生してから直すケースと、壊れる前に定期的に部品を交換するケース(予防保全)があります。とはいえ、まだ十分に使える燃料ポンプを「3万2000時間経ったので交換を」といった杓子定規な予防保全提案では、真の信頼は得られません。そこでマキタでは今、予防保全からさらに踏み込んだ予知保全(CBM=Condition Based Maintenance)をお客様に啓蒙、推奨しています。マキタのアフターサービスは、近年の製造ラッシュや製造モデルの大型化・電子化を背景に、今後4 ~ 5年で大きく伸びる可能性を秘めています。一挙倍増も十分ありえます。サーメットリングのように課題に即応できる手法を増やせば増やすほど、業績が伸び、信頼も広がるでしょう。黄金時代は、すぐそこまで来ています。
私は、精密機器メーカーの中国拠点などで16年の営業経験を積んだ後、生まれ育った香川に。マキタへの入社を報告した時、両親は「ああ朝日町の会社やろ。悪くないと思うで」と。いや本当に、悪くない決断でした。海外出張、中国での新規開拓、そしてCBM…何を希望しても、上司の答えはいつも「とりあえず、やってみたら?」。社会人として、こんなに自由にやらせてもらえたのは初めてです。 アフターサービス部に今いちばん足りないのは、技術がわかる営業の仲間。文系の方でも、前向きな意欲さえあれば大丈夫です。ぜひ一緒に、黄金時代を切り拓きましょう!